消防用設備等の中で消火設備は色々ありますがその中でも代表的な消火設備である「屋内消火栓」の設置基準について、各防火対象物(用途)の延べ面積に応じた設置基準と、消火栓の技術基準(1号消火栓や2号消火栓など)についても解説していこうと思います。
設置基準について
屋内消火栓の設置基準は基本的に防火対象物(又は用途)(令別表第一の項目)により区分されて、例えば令別表第一の(1)項イ(劇場等)(一般階)では、延べ面積が500㎡以上になると屋内消火栓の設置が義務となり、その他の防火対象物(又は用途)だと、大体延べ面積が700㎡または1000㎡以上になると設置義務が生じます。
上記の条件の他に「地階」「無窓階」「4階以上の階」というものがあり、これらは該当階の床面積が基準以上だと設置義務が生じます。
例えば(1)項イ(劇場等)に地下階があったとして、その床面積が100㎡以上なら屋内消火栓の設置が必要になります。
また上記の他にも危険物施設や指定可燃物への設置も可能で、水を嫌う危険物(禁水性物質や可燃性液体類など)以外への設置が出来ます(一部例外あり)。
また、この屋内消火栓の代替設備として「パッケージ型消火設備」というものもありますが、こちらは制約があり比較的小規模(延べ面積が2000㎡以下)の防火対象物にしか設置できません。
一般防火対象物への基準について詳しくは下記の表を参考にしてください。
設置基準の緩和規定について
上記の表の面積の部分にかっこ書きの数値がありますが、これは防火対象物の構造により設置基準を緩和(倍読み規定という)することができます。
ちなみに主要構造部とは柱・床・壁・はり・屋根・階段などを指し、消防用設備等において防火対象物(建物)の主要構造部という部分は非常に重要かつ密接な要素で、これらの構造が耐火構造や準耐火構造の場合に上記の倍読み規定を使用できます。
上記の表の下部にも記載がありますが、防火対象物の主要構造部が準耐火構造(鉄骨造など)かつ内装制限なら基準面積の2倍に倍読みでき、耐火構造(コンクリート造など)かつ内装制限なら基準面積の3倍に緩和できます。
例えば鉄骨造(準耐火構造)の倉庫(14項)の場合は、基準面積は700㎡ですが、準耐火構造なので上記の緩和規定を用いることにより延べ面積が1400㎡以上で屋内消火栓の設置義務が発生します。
内装制限について
内装制限とは燃えにくい材料(不燃材や難燃材など)を使用することにより、建物で火災が発生した際に内装(壁紙やクロスなど)が激しく燃焼して、延焼を促進するのを防ぐ役割をしています。
ちなみに消防法の内装制限と、建築基準法の内装制限は違うので注意が必要です。
(6)項イ及びロにおける緩和規定について
こちらは上記表の★部分について、通常の緩和規定(倍読み規定)又は「防火上有効な措置が講じられた構造を有する部分」の床面積+1000㎡を加えた数値のどちらか少ない数値で緩和できる規定になります。
この「防火上有効な措置が講じられた部分」とはレントゲン室や手術室、内視鏡検査室などの部屋において、かつ準不燃材の壁で開口部に防火戸が設置されているなどの条件が揃っている部分のことで、この構造を有する部分があれば上記の算定式で緩和を受けることができます。
屋内消火栓の種類について
屋内消火栓には「1号消火栓」「易操作1号消火栓」「2号消火栓」「広範囲型2号消火栓」があり、それぞれの技術基準について解説していきます。
1号消火栓
主に倉庫や工場、指定可燃物などに用いられる消火栓で、放水能力が優れている反面、取扱・操作方法に技術が必要であり2人以上いないと使用できない。
l 水平距離 25m以下
l 放水量 130ℓ/分以上
l 放水圧力 0.17Mpa~0.7Mpa
l ホースの長さ 25m
l 水源水量 2.6㎥×消火栓設置個数(最大2個=5.2㎥)
易操作1号消火栓
いろいろな防火対象物に用いられる消火栓で、保形ホースを用いることにより放水量はそのままに1人でも取扱・操作ができる消火栓。
l 水平距離 25m以下
l 放水量 130ℓ/分以上
l 放水圧力 0.17Mpa~0.7Mpa
l ホースの長さ 25m
l 水源水量 2.6㎥×消火栓設置個数(最大2個=5.2㎥)
2号消火栓
主にホテルや商業施設に用いられていて放水量は多くはないが、だれでも取扱いやすく1人で操作ができる消火栓。
l 水平距離 15m以下
l 放水量 60ℓ/分以上
l 放水圧力 0.25Mpa~0.7Mpa
l ホースの長さ 15m
l 水源水量 1.2㎥×消火栓設置個数(最大2個=2.4㎥)
広範囲型2号消火栓
最近誕生した消火栓で、水平距離は1号消火栓そのままに2号消火栓と同様の操作性で使用することができる良い所取りの消火栓
l 水平距離 25m以下
l 放水量 80ℓ/分以上
l 放水圧力 0.17Mpa~0.7Mpa
l ホースの長さ 25m
l 水源水量 1.6㎥×消火栓設置個数(最大2個=3.2㎥)
上記の消火栓は通常壁面に設置しますが、最近では天井に設置できるものもあり、その場合は天井に格納されている消火栓ホースを降下させる為の装置を起動装置(ボタン)にて起動させてホースを降下及びバルブが自動的に開いてすぐに消火活動が行える消火栓も存在します。
消火栓箱の決まり
上記で紹介した消火栓は「消火栓箱」と呼ばれる格納箱に収納されていますが、この消火栓箱にも設置するべき機器がありますので解説します。
標示
消火栓箱が一目で「消火栓」であることがわかるように標示をしなければなりません。
①消火栓箱の表面に「消火栓」という表示をする
②消火栓の位置を知らせる赤色の表示灯(位置表示灯)を、消火栓箱の上部に取付面と15度以上の角度となる方向に沿って10m離れた所から容易に見つけられる様に設置する。
始動表示灯
消火栓を用いて消火活動を行う際に消火栓ポンプ(加圧送水装置という)を動かさないといけませんが、この消火栓ポンプが動いているかが消火栓箱においてわかるように始動表示灯を設置しなければなりません。
これは上記の位置表示灯と兼用することができるので大体の防火対象物は位置表示灯と始動表示灯が兼用になっていて、この場合は、消火栓ポンプが停止状態なら赤色表示灯は「点灯」、消火栓ポンプが起動状態なら「点滅」になります。
放水用器具
消火栓箱に収納されている屋内消火栓を使用するのに必要な放水用器具には主なものとして「ノズル」と「ホース」がありますが、これらは消防庁長官が定める基準に適合するものを使用しなければなりません。
例えばノズルなら「日本消防検定協会」が型式認定した認定ノズルを使用する。
ホースも同じく「日本消防検定協会」から型式承認をうけた自主表示品(旧、国家検定品)を使用するということです。
インターネットなどで超格安なホースがありますが、この中には自主表示品ではないものがあり、自主表示品ではないホースは消防用設備には使用できない(ホースが設置されていないのと同じになる)ので購入する際には気を付けましょう。
屋内消火栓の設置を免除できる場合
上記で解説した屋内消火栓の設置基準に該当しているが、設置を免除することができる場合がありますので解説します。
まず基本として
☆屋内消火栓に代わる消火設備が設置されている
という前提があり、例えばスプリンクラー設備が技術上の基準に従い防火対象物(またはその部分)に設置されている場合(スプリンクラーヘッドの設置を要しない部分には補助散水栓にて警戒する等)にはその有効範囲内には屋内消火栓を設置しないことができるとされています。
他にも屋外消火栓や動力消防ポンプなど(防火対象物の1階と2階部分に限る)でもその有効範囲内には屋内消火栓を設置しないことができます。
まとめ
今回は屋内消火栓の設置基準について解説しましたが、まとめると
l 設置の基準になるのは防火対象物(または用途)の延べ面積、または一般階以外の階の床面積が一定以上になると設置が必要になる
l 防火対象物の構造(耐火構造など)により緩和規定がある(倍読み規定)
l 屋内消火栓には種類がある
l 消火栓箱にも種々の決まりがある
l 使用される設備や器具には検定品等を使用しなければならない
l 屋内消火栓の設置を免除できる場合がある
以上になります。
私たちが目にする「消火栓」がいろいろな決まり事によって設置されているということが理解していただけたら幸いです。
ちなみに「消火栓」であって「消化栓」ではありません。
屋内消火栓設備についてもう少し詳しく紹介している記事もあるのでぜひご覧ください。
▼屋内消火栓設備の種類を紹介し、種類別の特徴や使い方について解説しています▼