みなさんこんにちは。
今回は住宅の全部または一部を活用して,旅行者等に宿泊サービスを提供する「民泊」に設置するべき消防用設備について解説していきます。
本記事で記載している必要な消防用設備等や誘導灯の免除要件については所轄消防によって扱いが異なる場合がありますので、事前に所轄消防に協議・相談されることをおすすめします。
民泊とは?
「民泊」とは一般的に「住宅(一戸建住宅、共同住宅等)」の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供することを指しています。
平成25年12月に「国家戦略特別区域法」第13条において「旅館業法の特例」が規定されて、「東京圏」(東京都、神奈川県、千葉市及び成田市)と、「関西圏」(大阪府、兵庫県及び京都府)と、福岡市及び北九州市が区域指定されました。
また都道府県知事(保健所設置市は市長、特別区は区長)が一定の要件を満たすものを「外国人滞在施設経営事業(特区民泊事業)」として認定した場合、旅館業法第3条第一項(旅館業の許可)の適用を除外して、民泊新法での取扱いで宿泊(住宅宿泊事業)を行うことができます。
平成30年6月15日にこの民泊を解禁する住宅宿泊事業法(民泊法)が施行になりました。この新法の施行に合わせて全国53自治体が独自の条例を制定して、上記民泊法に上乗せする形で厳しい営業規制を設けているので、その一部を紹介したいと思います。
民泊を規制する自治体の主な条例
では自治体条例の一部を紹介していきます。
東京都千代田区…管理人が当該民泊の近くにいない場合は全域で営業できない。
神奈川県…箱根の別荘地で繁忙期の営業を禁止。
新潟県…小中学校などから100m以内の地区は、授業日の営業を禁止。
埼玉県川口市…駅周辺を除くほぼ全域で、営業を7〜9月の年62日間に限定。
兵庫県西宮市…民泊を行なう建物の周辺15m以内の住民を集めて事前の説明会を開く。
他にも各自治体により条例がありますので、民泊を始めようとしている方は注意が必要だと思います。
民泊の種類
民泊と一言でいっても種類があります。
- 旅館業法で規定されている「簡易宿所営業」。
- 民泊新法で定める「家主居住型」「家主不在型」。
- 国家戦略特区の民泊(特区内に限る)。
になります。
民泊に必要な消防用設備
上記民泊事業を認定する審査基準の一つに「消防法令で義務付けられている設備等が設置されていること。」という規定があるので説明していきます。
本記事は平成29.10.27 消防予第330号「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱い」を参考にしています。
住宅宿泊事業を営む住宅は、外国人を含む不特定の者が、使い慣れないコンロ等の火気使用設備等を用いること等により出火の危険性が高まることや、建物の構造に不案内なため避難に時間を要するなど、出火の危険性や火災時の避難困難性等が懸念されることから、滞在者や他の居住者の安全確保のため、消防法令に基づく防火安全対策(消防用設備等の設置や防火管理等)が適切に講じられるように次項のとおり用途を扱う。
平成29.10.27 消防予第330号「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱い」
民泊の用途の選定方法
※ここでは令別表第一の用途で解説しています。
「一戸建て住宅」及び「共同住宅等の住戸」の用途
- 宿泊室の面積が50㎡以下の場合・・・家主居住型なら住宅、家主不在型なら5項イ(宿泊所等)。
- 宿泊室の面積が50㎡超えの場合・・・家主居住型・家主不在型共に5項イ(宿泊所等)。
※宿泊室とは「宿泊者が就寝するための部屋」。
共同住宅等の「棟」の用途
- 全ての住戸が住宅→5項ロ(共同住宅)
- 一部の住戸を民泊に使用→16項イ(複合用途防火対象物)
- 大部分の住戸を民泊に使用→5項イ(宿泊所等)
上記の判定を行い、「住宅」「5項イ」「5項ロ」「16項イ」の区分と延べ面積等により設置されるべき消防用設備が決まります。
※家主等の居住・不在の判断は、一戸建て住宅の場合は棟単位、共同住宅等の場合は住戸単位で行う。
例として、一戸建てを利用して、家主が同居し、6畳間を4部屋宿泊室(民泊として使用)とすると、宿泊室は延べ約44㎡(6畳は約11㎡なので4部屋で約44㎡)となり、「住宅」の区分になる。逆に家主が不在の場合は面積関係なく5項イになる。
用途によって異なる適切な消防用設備
民泊の用途の選定ができたら、用途によって適切な消防用設備の設置を行いましょう。
「住宅」の場合
- 住宅用火災警報器を宿泊室等に設置する。
- その他(消火器や誘導灯など)は所轄消防により必要
「5項イ」の場合
●消火器
延べ面積150㎡以上のもの、又は地階・無窓階・3階以上の階が床面積50㎡以上
●自動火災報知設備
面積に関係なく全てに必要(特定小規模施設用自動火災報知設備が使用できる場合あり。)
●誘導灯
全てに必要(一定の要件を満たす場合は免除可能)
●スプリンクラー設備
11階以上のもの、又は延べ面積6000㎡以上など(一定の要件を満たす場合は免除可能)
●消防用設備等の点検報告
点検を年2回、報告が年1回
●防火管理の必要性
建物全体の収容人数が30人以上のもの(防火管理者の選任、消防計画の作成など)
●防炎物品の使用
全てに必要(カーテン・じゅうたんなど)
「5項ロ」の場合
●消火器
延べ面積150㎡以上のもの、又は地階・無窓階・3階以上の階が床面積50㎡以上
●自動火災報知設備
延べ面積500㎡以上のもの
●住宅用火災警報器
自動火災報知設備の設置を要しない部分の寝室等に設置する。
●誘導灯
地階・無窓階・11階以上の階
●スプリンクラー設備
11階以上のもの(一定の要件を満たす場合は免除可能)
●消防用設備等の点検報告
点検を年2回、報告が3年に1回
●防火管理の必要性
建物全体の収容人数が50人以上のもの(防火管理者の選任、消防計画の作成など)
●防炎物品の使用
建物の高さが31mを超えるもの
「16項イ」の場合
●消火器
延べ面積150㎡以上のもの(5項・イと5項・ロの面積による)、又は地階・無窓階・3階以上の階が床面積50㎡以上
●自動火災報知設備
延べ面積300㎡以上のもの(5項・イ部分が全体の10%以下の場合は5項・イ部分のみ)・延べ面積300㎡未満のもの(5項・イ部分のみ)等。
●住宅用火災警報器
自動火災報知設備の設置を要しない部分の寝室等に設置する。
●誘導灯
全てに必要(一定の要件を満たす場合は免除可能)
●スプリンクラー設備
11階以上のもの、又は5項・イ部分が3000㎡以上など(一定の要件を満たす場合は免除可能)
●消防用設備等の点検報告
点検を年2回、報告が年1回
●防火管理の必要性
建物全体の収容人数が30人以上のもの(防火管理者の選任、消防計画の作成など)
●防炎物品の使用
建物の高さが31mを超えるもの、又は5項・イ部分
※注意※ 上記は、消防法で求められる主な対応を整理したもので、建物の規模や形状等により他の対応を求められる場合(建物がラスモルタル造で漏電火災警報器が必要など)や、各自治体による条例(火災予防条例)が定められている為、上記とは違った対応が必要な場合がありますので、詳細は管轄の消防本部に確認する必要があります。
特定小規模施設用自動火災報知設備について
建物の用途判断で自動火災報知設備(以下、自火報)を設置が必要になった場合、工事は消防設備士甲種4類保持者が行い、受信機や感知器や音響装置などの設置、配線の通線等大がかりな工事になり多大な負担がかかってしまいます。
ですが、もし建物の延べ面積が300㎡未満なら「特定小規模施設用自動火災報知設備」というものを使うことができるかもしれません(所轄消防によります)。
特定小規模施設用自動火災報知設備の特徴は下記になります。
- 電池式の感知器で電源の配線工事が不要
- 感知器同士が無線通信を行うので感知器間の配線工事が不要
- 感知器自体が警報を発するので音響装置の設置不要
- すべての感知器が連動して警報音を発するので受信機の設置不要
- 工事には消防設備士の資格不要で、工事に着工する前の所轄消防へ提出する着工届も不要(工事後の設置届は必要)
特定小規模施設用自動火災報知設備はリーズナブルですが、無線式の為、電波環境によっては感知器同士の通信が行えずに使えない場合もあるので注意が必要です。
誘導灯の免除要件の例
ここ最近、古民家などを利用しての民泊が増えてきていますので一戸建てを民泊として利用する場合の誘導灯の免除要件を説明していきます。
①避難口までの視認性について以下の要件を満たすもの
居室の各部分から主要な避難口を容易に見渡せ、かつ、識別できる階で、当該避難口に至る歩行距離が避難階にあっては20m以下、避難階以外の階にあっては10m以下であるもの。
②以下の要件に該当する部分
●次の(1)から(3)に該当する避難階(1階)
(1)以下のいずれかの要件に該当すること
- 各居室から直接外部に容易に避難できること。
- 各居室から廊下に出れば、簡明な経路により容易に避難口へ到達できること。
(2)建物の外に避難した者が当該建物の開口部から3m以内の部分を通らずに安全な場所へ避難できること。
(3)利用者に対して避難口等の案内を行うことや、見やすい位置に避難経路図を掲示すること等により、容易に避難口の位置を理解できる措置を講じる必要があります。
●次の(1)から(3)に該当する避難階以外(2階)
(1)各居室から廊下に出れば簡明な経路により容易に階段へ到達できること。
(2)非常用の照明装置の設置、または常時容易に使用できるように携帯用照明器具を設置することなどにより、夜間の停電等においても避難経路を視認できること。
(3)利用者に対して避難口等の案内を行うことや、見やすい位置に避難経路図を掲示すること等により、容易に避難口の位置を理解できる措置を講じる必要があります
③宿泊施設として利用しない一般住宅部分
以上の3項目に該当する部分の誘導灯の設置は免除となります。
ですが所轄消防本部によっては免除にならない場合があるので所轄消防本部に事前に相談をおすすめします。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます。
これから民泊も増える傾向にあると思いますので、あらかじめ民泊に必要な設備(消防用設備含む)等を勉強しておくのはとても良いと思います。
特区内民泊は営業日数に制限はありませんが、特区以外の民泊は営業が180日以内となっているのでここがどう影響してくるか?ってところではあります。
ちなみに誘導灯・誘導標識の設置工事は消防設備士甲種4類+電気工事士の資格が必要なので気をつけましょう。